塾長トーク
人格・言葉の魅力 2009年2月
幸い(さいわい) はじめから幸せ
古くは、「さきわい」といい、「さきわう」の連用形が名詞化したものです。「わう」は、「味わう」や「賑わう」と同じく、動詞を作る接尾語。
そして、「さき」は、「さち」と同じで、もともと、獲物をとるための道具や、その道具の持つ霊力のことだそうです。やがて、「海の幸、山の幸」というように、獲物そのものをさす言葉になりました。
獲物があることが幸せ……。これは、マズローという心理学者の欲求段階説では、第一段階の生理的欲求にあたります。人間の欲望は、五段階の順を追って満たされていくというもので、その後に安全の欲求、親和の欲求、自我の欲求、自己実現欲求と続くわけですが、日本では、ほとんどの人が第二段階までは満たされていることでしょう。
私たちは、すでに、多くの幸に恵まれているのですね。
「美人の日本語」(幻冬舎)より
人格・言葉の魅力
いま、オバマ氏のスピーチを聞いています。(「オバマ演説集」朝日出版社)のCDです。米国史上初のアフリカ系(黒人)大統領となるオバマ氏がたどってきた道筋を見ると、マイノーリティーの少年が苦難を乗り越えて一国の指導者へと成長する物語です。はじめに、彼の価値観を形づくった半生を伝えたCNNの放送が収録されています。
国民を熱狂させるオバマ氏の魅力の源泉にせまるとともに、スピーチの名手と評される秘密が、言語表現のワザにあることも分析されています。
2004年の前回大統領選のとき、オバマ氏は連邦議会議員ですらなく、州議会の一新人議員にすぎませんでした。その彼が、一躍全米の注目を集めるきっかけとなったのが、7月27日の民主党大会での基調演説「大いなる希望」です。聴衆の中には、感動のあまり、「おお神よ、これは歴史に残る演説です」とつぶやいて涙を流す人がいたといわれ、いまや伝説と化しています。
秘密の一つ目が、このスピーチにある「実演」と呼ばれるテクニックです。
「私は今夜、彼らにこう言います、リベラルなアメリカも保守的なアメリカもありはしない――あるのはアメリカ合衆国なのだと。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン系のアメリカもアジア系のアメリカもありはしない――あるのはアメリカ合衆国なのだと。……イラクにおける戦争に反対した愛国者もいれば、それに賛成した愛国者もいます。われわれはひとつの国民であり、われわれ皆が星条旗に忠誠を誓い、われわれ皆がアメリカ合衆国を守っているのです」このフレーズです。
オバマ氏は、ケニアからの黒人留学生とカンザス州出身の白人女性との間に生まれました。多民族国家アメリカにおいて、彼自身が「人種の融合の象徴」といえます。つまり、彼自身がスピーチの内容を実演しているということです。
2008年3月4日、予備選の山場のひとつであったミニチューズデーの結果は、ヒラリーの3勝1敗で、オバマ陣営は改めて長期戦を覚悟しなければなりませんでした。そうした状況の中でも、彼は、疲れや落胆を示すことなく、「われわれにはできる(Yes, we can.)」と発し続け、演説の最後は次のようなフレーズです。
「世界は何を見るでしょう?われわれは世界に何をつたえるのでしょう?われわれは何を示すのでしょう?」と疑問文を三回繰り返した後で、「われわれは、党派や地域、人種や宗教を越えてひとつになり、すべてのアメリカ国民が生まれながらに持つ権利としての繁栄と機会を取り戻すことができるのか。国際社会を先導して、21世紀の共通の脅威――テロや気候変動、大量虐殺や病気――に立ち向かうことができるのか。恐怖や貧困から逃れたいと望む海の向こうの疲れ果てた旅行者に対して、アメリカ合衆国こそが現在も、そしてこれから先もずっと、最後にして最良の地上の希望であるというメッセージを送ることができるのか」と再び疑問文を3回繰り返しています。そしてさらに、「われわれはこう言います、こう願います、こう信じます」と、疑問に対する回答を3回同じ構造で繰り返し、最後に「大丈夫、われわれにはできる!」と締めくくりました。
秘密の二つ目が、ここにある「再現」の多用です。同じ構造の文を繰り返すことで、リズムを整え、聴衆に内容を理解しやすくする効果があります。彼の話しぶりとも相まって、大きな魅力になっています。
2008年8月28日、民主党大会で正式に候補者としての指名を受けました。「大いなる希望」から
4年、「アメリカの約束」と題して演壇に立ちました。これがキーワードです。3つ目の秘密は、覚えやすくインパクトのある言葉やフレーズを、政治的スローガンとして用いる技法で「イデオグラフ」と呼ばれます。「希望」や「変化」などのシンプルなスローガンを繰り返しつつ、ビジョンや政策を提示する戦略です。「よりよいものを追求するはずの<国>が、夢を追い求める自由を持つはずの<国民>に対し、その責任を果たしていない」というのがオバマ氏の考えです。「希望」を強調するだけの政治家だ、という批判を意識した内容にもなっています。税法やエネルギー源など、具体的な数値も明確にしています。
有権者の多くはインターネットから情報を得るようになっています。オバマ陣営は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどを利用する選挙運動も重視しました。そうした際にも、まずわかりやすいスローガンで有権者の支持を得るという手法は的を射たものといえます。
2008年11月4日、二十万人を超える支持者を前に勝利演説「アメリカに変化が訪れた」です。
共和党の地盤であったバージニア州を44年ぶりに奪うなど、白人の43パーセントを獲得し、「国民全体から選ばれた」といえる勝利でした。
リンカーンの奴隷解放宣言(1863年)から100年後に、キング牧師が「私には夢がある」と演説し、それからさらに45年後のオバマ氏の勝利演説。オバマ氏は、歴代大統領の中でリンカーンにだけ触れました。7分20秒間の力強い演説を聴きながら終わります。
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