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読書で心の旅を 2009年4月

曙(あけぼの) ほのかな夜明け

 春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎわ 少し明りて 紫だちたる雲の 細くたなびきたる?(「枕草子」) 夜がほのぼのと明けようとする空、次第に白くなってゆく山際、細くたなびく紫がかった雲……どこまでもおぼろげで、やさしい春の風情です。
 曙の空の色は、真っ黒な闇から、ゆっくりと明るさが加わっていきます。大自然が描く、美しいグラデーションです。
 新しい時代や文化の到来という意味でも曙という言葉が用いられるのは、時代や文化もある日突然、様変わりするのではなく、少しずつ移ろっていくからでしょう。
 もし、新しい自分に変わりたいと思ったときは、曙の空を思い出してみませんか。ゆっくりと、でも確実に夜明けはやってきます。

「美人の日本語」(幻冬舎)より

読書で心の旅を

 2月25日、建築家・安藤忠雄さんのセミナー講演会(ソフトブレーン主催)に参加してきました。テーマは「不況に打ち勝つリーダーシップとは…」と題して、学ぶ姿勢、チーム力の大切さなど、自身の体験を通しての実感のこもった話でした。日本の教育環境の問題点等も指摘しつつ、また別の角度で、十代の時期の読書の大切さを訴えておられました。(安藤さんは2010年国民読書年推進会議の座長にも就かれています。) さらに、2016年東京オリンピックの招致活動の総監督も務められ、「海の森募金」の活動を進めている様子、都市整備の構想なども語られていました。スライドの写真も素晴らしいものでした。私自身、建築を学んだ時期もあり、安藤さんの生き方には、強く魅かれていたので、著書にサインをいただき、感動的なひとときでした。

 安藤さんの仕事場をご存知ですか?事務所ビル4階まで吹き抜けで、壁一面が本棚になっていて、建築の専門書や洋書、雑誌だけでなく、小説なども含めて数多くのジャンルの本が数万冊も収められています。圧巻です。

 数日後、朝日新聞社が主催する「オーサー・ビジット」(人気の本の作家<オーサー>が各地の学校を訪問<ビジット>して授業する読書推進プロジェクト)の記事が目にとまりました。(3月4日付朝日新聞)「感動は時空超えて創作の秘密に迫る」と題して、5人のオーサーが紹介されています。それぞれのタイトルから授業の内容が想像できそうです。

 作家の上橋菜穂子さん「みんなの作品 共通点は?」
 落語家の桂文我さん「小咄三秒 受け継ぐ笑い」
 医師であり作家の海堂尊さん「読む人を意識して書こう」
 登山家の野口健さん「登山で知った命の尊さ」
 詩人の工藤直子さん「フキノトウになりきって」

 この紙面に、「はるかな世界へ心の旅をさせてくれるのは『本』」と話す安藤さんのインタビューが掲載されていましたので、以下そのまま引用します。
 建築の道に進もうと考えたのは十代の終わり。関西近郊の大学をのぞきに行ったのですが、授業が全然分からない。本を読んでいないから。あわてて読むわけですよ。
 例えば、和辻哲郎の『古寺巡礼』。読みながら奈良、京都を歩くのです。建築と文学とは違う世界だと分かる。文学だからこそ見えてくる建築の奥行きがあるのですね。視覚だけの世界は直接的で、即物的。柱と梁(はり)が重なって建築を構成する、動かしがたい現実が目の前にあるのです。文学なら読み手がいろいろに受け取れる自由がある。
 当時、月給は一万円ほど。外国の建築雑誌を毎月買うと、一年で五千円くらいになりましたが、買っていましたね。収入の半分は本を買ってもいい、と思っていた。全部読めるわけじゃないけれども、豊かな気持ちになる。谷崎潤一郎の『陰影礼讃(らいさん)』を読んでも、具体的な建築のかたちは見えてこないですよ。でも、想像力が刺激される。
 2001年に開館した司馬遼太郎記念館を造ったときは、司馬さんの蔵書を見てぼうぜんとしました。これが頭脳の中にすべて入っていたんだ、と。その感動を共有してもらおうと、記念館には司馬さんの本を壁一面に並べました。
 今も東京と大阪を往復する新幹線と、家でも夜一時間ぐらい本を読みます。いろいろな世界へ心の旅ができる。例えばベネチアで仕事をするときは、ルネサンスについての本。そうすると時代が分かる。仕事がおもしろくなります。
 若い人には、十代から乱読でもいいから本を読んで、人間とは、自分が存在するとは、いかに生きるか、と考えてほしい。考える人間、思考力のレベルの高い人間が、次の時代を切り開くのは間違いない。
 受験のために読むのは少し違うと思うんですね。心の奥行き、精神の豊かさを求めて読むわけじゃないから。夏目漱石や森鷗外の作品名を知っているだけでは、文学にさわったことにはならない。人間や命に対する愛情や深い思考力の源泉は、書物なんです。
 先人の英知が詰まった本は、誰にも開かれた心の財産。それを自ら放棄するのはあまりに愚か。人間は知的体力も必要だから、子どものときに鍛えないと。知的体力も、社会人としての礼儀の一つですよ。
 日本人の多くは、大学を卒業すると本を読まない。でも、本で心の栄養を常にレベルアップすれば、人生に違った楽しみを感じ取れるようになる。お金だけではない本物の価値観を、一人ひとりが育んでほしいと思います。

2009.05.10  投稿者  (13:07) | PermaLink

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