塾長トーク
志ある子を育てる 2010年2月 @文京区 学習塾 中学受験
心根(こころね) 花の咲かない冬の日は……
心を土壌に見立てる発想は、農耕民族の日本人らしいですね。
心根は、時には本性をさしたり、根性や気だてをさしたりしますが、どれも心の深い部分のことです。植物は、根っこさえ枯れなければいつか芽を出し、花を咲かせたり、実を結んだりすることができます。
人の心も同じではないでしょうか。
心にも花が咲きます。そして枯れてしまうこともあります。
そんな時でも、根だけは枯らさないように、土を耕したり、肥やしをあげたりすることが大切なのですね。下へ下へと丈夫な根を伸ばせば、今度は、きっと、前よりもすばらしい花が、咲くことでしょう。
「美人の日本語」(幻冬舎)より
志(こころざし)ある子を育てる
児童心理(金子書房)1月号の特集タイトルです。「志」という言葉を聞くことも使うことも少なくなってきているように思います。「志す」となれば、「心指す」の意味になり、心がその方に向かうこと。成し遂げようとする目標を心に決めるという意味になります。人生に対する前向きの姿勢、生きる情熱に通じる志をもつことは、いつの時代でも大切なことに変わりはありません。夢や希望がもちにくいといわれる昨今、子どもの志を育てるにはどうしたらよいかを考える内容になっています。
体験談コーナーのタイトルは、「私に志が芽生えたとき、そして現在の私」。安部譲二(作家・「ジェットコースターのような人生」)、尾木直樹(教育評論家・「虹の志」)、片岡鶴太郎(俳優・画家・「心のゆくところを見極める」)、中村桂子(JT生命誌研究館館長・「志を持ちそびれて」)、舞の海秀平(スポーツキャスター・「夢が決意に変わったとき」)、増井光子(よこはま動物園ズーラシア園長・「願うと道は拓ける」)の六名の方々の体験です。やはり体験談の方が印象に残りますね。
精神科医の春日武彦氏が、「志なき時代の中で」と題する小論の結論部分で、生きる意味について言及しています。生きる意味については別の文脈に属す二つの回答があるのではないかとし、ひとつは、多様性ということについて。
「人類そのものに多様性があればあるほど、危機を乗り切ることも可能性を活かすことも容易になる。あえて個性とは言わない。人それぞれの多様性が、人類に可能性と『したたかさ』をもたらす。そういった点では、生きる意味とは『とにかく生きていること』そのものであるということになる。さらに言えば、自分らしく生きることがベストというわけで、だからそれが何らかの成果をもたらすかどうかはわからないけれども、潜在的な可能性を示しただけで生きる意味は十分に果たしているということになるだろう」と。
もうひとつは、もっと個人レベルで「充実感」といったものをどれだけ大切に思うかといった点を指摘しています。
「本来、なぜ人の心は充実感を覚えるようにできているのだろうか。答えは、それが精神的な安定をもたらすからである。寂しさや不安や無力感や、それどころか(おそらく)衰弱や死への恐れさえも、その由来は空虚さへの本能的な嫌悪ないし恐怖であろう。それに拮抗し自己の存在感を確認する証こそが充実感なのであり、だから充実感には満足感のみならず、ある種の安堵感が含まれていることになる。充実感を追求することは、生きる意味というよりは、切実感にあふれる『業』に近いものかもしれない。だが我々は、充実感を覚えることにおいて生を全うしつつあると感じるようにつくられているのである。生きる意味を実践しつつあると感じるようにできているのである。そして志は、システマチックに充実感を獲得するためにきわめて能率的な方法論でもあるのだ。志を持とうが持つまいがそれは個人の勝手かもしれない。が、志を持ったほうが明らかに人生は充実し、精神的に楽になる。現代は、そんな当たり前のことを教えてもらい損ねた不幸な人々のあふれた時代なのではないか。そんな気がしてならない」と。
片岡鶴太郎氏は、子どものころから芸能の仕事をやりたいと思っていて、小学四年のときに見た、渥美清や棟方志功のドラマに感動し、役者になろうと決めたそうです。中3まで、ほとんど勉強はしなかったようですが、中卒ではまずいと思い、裕福ではないので公立高校に行きたいと担任に相談したら、「今の成績では公立高校には行かれない」と言われ、中3の夏休みに猛勉強、その結果、学年10番以内に入り、そのとき担任の先生が、「お前はやればできるんだ。力はもっているんだから、頑張れ」と言ってくださり、その言葉が人生の一番の核になり、今でも支えられていると語っています。
高校卒業後は、片岡鶴八師匠に弟子入りして、3年後からひとりだちして、25、6歳で『オレたちひょうきん族』に出演。バラエティー中心に活動する中、俳優としての仕事も増えてきたところで、332歳からボクシングを始め、33歳でプロライセンスをとり、そして、鬼塚選手と出会い、マネージャーとして世界チャンピオンへの階段を駆け上がると同時に、役者としても充実していた。6,7年後、鬼塚選手引退、主役をつとめていたドラマ「金田一耕助」「季節はずれの海岸物語」のシリーズも終焉。そんなときに見た夕日や花の自然の姿に感動を受け、そういう自然の生命を絵に描けるようになりたいと深く強く思ったそうです。ただただ好きなものを追い求めていった結果なのだと。
最後に次のように語っています。
「志という漢字は、士に心と書きますが、士は之の変形で、心のゆくところという成り立ちなんです。つまり、志とは、本当に自分がやりたいと思っているところに向かうということです。頭であれこれ考えたり、社会に貢献するとかいうことよりも、自分の心のゆくところをちゃんと見極めるということ、自分が何を好きなのか、そこが大事だと思いますね。夢や希望がかなわないこともあるでしょう。そんなときは、また自分に向き合い、やりたいこと、好きなこと、自分の持ち味、才能を模索することです。私が描いた絵や演技を見て、何か感じていただいたら、それはうれしいことですが、感動してもらおうなんてまったく思っていません。好きなことを生業とすることが幸せだし、それが一番自分の魂が喜ぶと思います。これからも、自分の心に向き合い、こうしたい、ああしたいという思いを一つ一つ形にしていきたいと思っています」と。
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