塾長トーク
未来をつくる君たちへ 2010年6月 文京区 公立中高一貫校
塾長トーク 6月
推敲(すいこう) 小さくても大きなこだわり
唐の国の詩人、賈島(かとう)が、ロバに乗りながら、詩を考えていました。
「僧は推(お)す月下の門」という句の、「推す」を「敲(たた)く」に変えた方がいいかどうか、迷っているうちに、有名な詩人、韓愈(かんゆ)の行列にぶつかってしまったのですが、韓愈は、怒るどころか「敲く」の方がいいと、アドバイスしてくれたそうです。
この故事から詩や文章を書くとき、言葉や表現を何度も練り直すことを、推敲というようになりました。
文字が、作品になるためには奥行きが必要でしょう。平面的な紙に書かれた文字、それが、立体的な広がりを持って初めて、作品といえるものになると思うのです。たった一文字の向こうに、大きなこだわりが隠れているから、思いが伝わるのですね。
「美人の日本語」(幻冬舎)より
未来をつくる君たちへ
歴史小説家の司馬遼太郎氏が、かつて小・中学生に向けに書いた「二十一世紀に生きる君たちへ」という随筆があります。教科書にも載りましたし、何種類かの書籍にもなっていますので読まれた方も多いと思います。毎年、卒業生に渡しています。次のような書き出しです。
「私は、歴史小説を書いてきた。もともと歴史が好きなのである。両親を愛するようにして、歴史を愛している。歴史とはなんでしょう、と聞かれるとき、『それは、大きな世界です。かつて存在した何億という人生がそこにつめこまれている世界なのです。』と、答えることにしている。私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。歴史の中にもいる。そこには、この世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである。だから、私は少なくとも二千年以上の時間の中を、生きているようなものだと思っている。この楽しさは――もし君たちさえそう望むなら――おすそ分けしてあげたいほどである。ただ、さびしく思うことがある。私が持っていなくて、君たちだけが持っている大きなものがある。未来というものである」さらにこう語りかけました。
「自己を確立せねばならない。……自己といっても、自己中心におちいってはならない。人間は、助け合って生きているのである。……助け合うという気持ちや行動のもとのもとは、いたわりという感情である。他人の痛みを感じることといってもいい。やさしさと言いかえてもいい」と。
未来はどうなるかわからないけれども、でもそれは君たち自身がつくるものなのだ、二十一世紀をすばらしい時代にしてほしい、との司馬氏の願いがこめられています。
昨年、NHKが「未来をつくる君たちへ」という3本シリーズの番組を放送しましたが、その内容が本になっています。――司馬遼太郎作品からのメッセージ――です。(NHK出版)
司馬氏がよく書いていた、明治維新をはさんだ「激動の時代」の人々を題材にして、この21世紀を生きるヒントを小・中学生に届けたいという企画です。
21世紀がはじまってすでに10年。すばらしい時代に生きているような気持ちにはなれない「不安の時代」とも言える状況です。社会や世界がどう変わっていくのか、よく分からないし、確かなことは誰も言えません。だから、どうすれば「人が幸せになれる世の中」をつくれるのかを、若い世代に考えて欲しい、というプロデューサーの思いが感じられます。
はじめに評論家の立花隆氏が「情報を手に入れて未来を拓こう」と題して、緒方洪庵から学ぶことを語っています。次に作家の関川夏央氏が、「歴史上の人びとは、僕らの友だちだ」として正岡子規と夏目漱石の交流から見えてくるものなど。最後は評論家の松本健一氏が、「世界への好奇心をもとう」と題して高田屋嘉兵衛の生き方から学ぶことを語っています。テレビで伝えきれなかったメッセージが全部つまっているとのことで、それぞれ小・中学生に読みやすい文章でよくまとめられています。
「21世紀はこうなりますよ」「こうすればいいんだよ」と教えてくれるわけではありません。それどころか、「大変な時代がくるかもしれない」と言っています。そんな時代だからこそ誰かに頼るのではなく、「自分の頭で考える」「自分の目で周りの世界に素直に向き合う」ことを強く勧めてくれています。「自分の頭で考え」「自分の力で未来をつくる」ヒントがかくされています。
21世紀を生きるみなさんが、ちょっと困ったとき、不安におびえたとき、こんなはずじゃなかった、と思ったときに、目の前がちょっと開けるような、そんな「宝箱」のような言葉がつまっている本です。ぜひご一読を。
2010.08.26 投稿者 ikueigk (22:42) | PermaLink
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